PHCbi

CASE STUDIES 導入事例

家畜生物学研究所(FBN) ドゥンマーシュトルフ〔ドイツ〕

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幹細胞研究に筋肉を追加する細胞の分析

ドイツのドゥンマーシュトルフにある家畜生物学研究所(FBN)は、持続可能な農業の枠組みの中で、より良い家畜管理について重点的に探究しています。この研究所の研究テーマは、①農業における家畜飼育の個別対応化、②持続可能な資源循環の下での畜産、③家畜の重要なライフステージへの対応、④畜産における多様性の促進、という主に4つに分類されています。この中で、複数のワーキンググループが特定の課題を探求しています。FBNの「筋肉成長の細胞生物学」ワーキンググループを率いるのはモニカ・レントゲン(Monika Röntgen)博士です。筋形成(筋肉の発達と成長)の重要なパラメータの測定において、PHCbiのLiCellMoのような新しい研究機材が、どのように高い精度と時短化を実現するのか、レントゲン博士に概説していただきました。




モニカ・レントゲン博士

出生後の筋形成は、筋サテライト細胞(SC、衛星細胞)を含む筋幹細胞に依存しています。これらの幹細胞の数と機能特性は、筋肉の形成、成長、再生能力、適応性を決定づけます。さらに、筋肉の発達における臨界期には、さまざまな要因によってその機能性が恒久的に変化する可能性があります。

「私たちの研究は、筋肉の健康、体組成、家畜の肉質の改善に向けて、筋肉の発達と可塑性のプロセスのさらなる理解に貢献することを目的としています。また、私たちは動物性タンパク質を生産するための環境に配慮した代替方法も、世界的な食料安全保障の一つの構成要素であると考えています。」とレントゲン博士は説明します。「私たちの主要な研究テーマは、出生後早期の家畜における筋形成過程の分子生物学的制御と代謝制御、飼料化合物・生理活性物質・免疫系構成要素による筋サテライト細胞の成長挙動の調節、動物の幹細胞を用いた人間の栄養素としてのタンパク質の作製、です。」


培養肉

また一方で、現在このグループの最大のプロジェクトは、ブタ幹細胞を用いた培養肉製造の完全なプロセスの開発です。このプロジェクトは、ドイツ連邦教育・研究省から資金提供を受けており、FBNは他の3つのパートナー(2つの研究機関と1つの企業)と連携しています。

スケールアップ

レントゲン博士のグループの中で、理学修士のテッサ・ウォルター(Tessa Wolter)氏がこのプロジェクトに取り組んでいます。このプロジェクトでは、細胞を用いた方法で高品質の動物性タンパク質を生産するための解決策を見出すことに注力しています。

「大まかに言えば、私たちは代謝プロセスと、細胞増殖や分化における代謝やミトコンドリアのシグナルの調節作用に非常に興味を持っています。そこでは乳酸が重要な役割を果たします。」とレントゲン博士は述べています。「培養肉用の筋細胞を生産するには、私たちは筋形成の効率をさらに高める必要があります。培地組成を変えて細胞の代謝効率を改善することも、一つの方法です。」

LiCellMoを使えば、バイオリアクターから採取した培地サンプルのグルコースと乳酸を解析して、細胞増殖と代謝活性を制御することもできます。

「私たちの研究では、使用している培地を最適化するために、グルコースや他の成分について、いくつも試験を行わなければなりません。」とレントゲン博士は続けます。「LiCellMoでは、そうした変化の有効性も否定的な影響も、リアルタイムで直接確認できるので助かっています。通常、培地サンプルの分析を始める前に、実験を終了しておかなければなりませんが、当然、こうした手順には非常に時間がかかります。」

LiCellMoがあれば、研究チームは、細胞の代謝活性がどのように変化するか、pH、グルコース、乳酸の値から直接的に確認できますし、培地交換の最適なタイミングも迅速に決定することが可能になります。

「スケールアップしなければならない、ということも、私たちのもう一つのポイントです。」とレントゲン博士は述べています。「これは一番大きな課題の一つです。なぜなら標準的な細胞培養では、私たちは通常12~20ミリリットルという少ない液量のディッシュやフラスコを使っているからです。バイオリアクターを使い始めると液量はもっと多くなりますので、初めに至適な細胞密度を見出す必要があります。

これは簡単そうに聞こえますが、後に続く他の全ての過程の要点です。私たちのケースでは、最初は12ミリリットルのディッシュから、容量200ミリリットルの小さい方のバイオリアクターに切り替えて、さらに大型の容量20リットルのバイオリアクターで研究を始めました。当然、ディッシュからこのような大容量の培養容器にすぐに移行することはできません。そのため、経時的に起きることを管理する必要があるのです。LiCellMoを使えば、バイオリアクターから採取された培地サンプルのグルコースと乳酸について解析し、細胞増殖や代謝活性を制御することができます。」

実際の利点

「小型である、ということも、LiCellMoの長所の一つです。LiCellMoは私たちのインキュベーターによく収まりますし、場所を取り過ぎることもありません。ですから、並行して他の実験をするためのスペースがまだ十分に残されています。」とウォルター氏は述べています。「リアルタイムでデータを表示するコントローラーのディスプレイもとても役立ちました。」

「LiCellMoは使い方が簡単ですし、非常に、非常に感度が高い、ということが何より重要な点です。そのため、得られたデータが細胞の活性によるものなのか、取り扱いの影響(例えば、インキュベーターの扉が開いていたことなど)によるものなのかを区別するために、全ての実験条件についてブランクの培地を用意しておくことが非常に重要です。」
「LiCellMoのもう一つの利点は、少ない培地でも実験ができることです。そのおかげで、プライマリーセル(初代培養細胞)や培地のようなリソースを節約できます。」とウォルター氏は指摘しています。

LiCellMoは使い方が簡単ですし、非常に、非常に感度が高い、ということが何より重要な点です。

「96ウェルのものとは違って、LiCellMoで使われる24ウェルのプレートは小さ過ぎません。これは重要な点です。なぜなら多くの細胞タイプにおいて、増殖能や分化能は使うディッシュのサイズによって変わるからです。そのため、研究に最適な培養容器を見出す必要があるのですが、24ウェルは研究を開始する際に適したフォーマットで、さらに小さなフォーマットよりも細胞の増殖が良好である場合が多いです。」

「市販の試験キットは、特にこれまでは乳酸の測定に使用されてきましたが、LiCellMoは大きな利点をもたらします。」とレントゲン博士は付け加えます。

「もちろん、乳酸は筋肉において非常に重要なものです。」とレントゲン博士は述べています。「筋肉組織や細胞の代謝に関する情報を得るためには、乳酸デヒドロゲナーゼの活性を測定することが一般的です。もうひとつの方法は、試験キットを用いて細胞外の乳酸濃度[mM]を測定することです。私たちの手元にある試験キットは、特に細胞を扱う際に、感度が十分ではありませんでした。さらに、どちらの方法でも、サンプルの解析は実験終了後になります。ここで申し上げておきたいのですが、LiCellMoの乳酸解析は高感度なので、はるかに良く機能します。」

「LiCellMoは標準的な市販の細胞培養プレートを使用しているので、並行して他の実験を行うことができる、という利点もあります。」とウォルター氏は述べています。「さらに最も重要な点は、モニタリングした後の細胞を下流の研究にも使用できる、ということです。例えば、細胞数や、DNA、タンパク質の濃度を測定して細胞増殖の特性評価を行ったり、遺伝子発現を調べて発現制御機構の理解に役立てることもできます。LiCellMoがあれば、LiCellMoの測定がその分析や実験の最終的段階(end point assay)になる訳ではありません。もし測定中に他の試験や処理を行いたくなれば、いつでもLiCellMoを一時停止することができますし、後で測定を再開することもできます。」

将来的な可能性

さらに大型のバイオリアクターの値を直接的に測定することが、レントゲン博士にとっての鍵となるようです。

「LiCellMoのような機器を使ってバイオリアクターの培地を解析出来るだけで利点です。」とレントゲン博士は述べています。「将来的に私たちは、もっと大きなバイオリアクターを持つことになるでしょう。その時、バイオリアクター内の培地を経時的に直接サンプル採取して制御する手段があれば理想的です。そうすれば、サンプル採取、解析、関連情報の取得、といった一連の流れを非常に効率的に行うことが可能になります。」


家畜生物学研究所(FBN)に関する詳細は、次のリンクをご参照ください。
https://www.fbn-dummerstorf.de/en/

モニカ・レントゲン博士のグループの詳しい情報は、次のリンク先にあります。
https://www.fbn-dummerstorf.de/en/research/working-groups/cell-biology-of-muscle-growth/


インフォメーション

PHC株式会社 バイオメディカ事業部

https://www.phchd.com/jp/biomedical/live-cell-metabolic-analyzer

LiCellMo ライブセル代謝分析装置


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