目次
法人化を検討すべきタイミング
医療法人化の検討を始める目安として、一般的に以下の2つの状況が挙げられます。
| タイミング | 理由 |
|---|---|
| 院長先生の課税所得が2,000万円を超えたとき(目安) | 個人の所得税(最大45%)より法人税率(最大23.2%)が低くなり、税制上のメリットが手続きコストを上回るケースが多くなるため ただし個々の状況によって異なるため、税理士への確認が必要 |
| 分院展開を検討するとき | 個人経営は1人1医院が原則のため、複数施設を開設するには法人化が必須条件となるため |
ただし、目先の節税だけでなく、将来の事業承継計画や経営の自由度も含めて総合的な判断が求められます。
出典:国税庁「No.2260 所得税の税率」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm)
出典:国税庁「No.5759 法人税の税率」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm)
法人化すべきかどうかの詳しい判断基準は、以下のガイドで解説しています。図解やポイントをまとめているため、参考になさってください。
▶「医療法人化の判断ガイド」をダウンロードする(無料)
医療法人化のメリット・デメリット
法人化にはさまざまなメリットがありますが、同時に考慮すべきデメリットもあります。メリット・デメリットを一覧表でまとめたため、比較する際の参考になさってください。
法人化によるメリット
個人とは異なる法人化の主なメリットは、下表の5点です。
| 主なメリット | 内容 |
|---|---|
| 税制面での優遇がある |
|
| 社会的信用が向上する | 都道府県知事の認可が必要なため対外的な信用が高まり、金融機関からの融資や優秀な人材の採用で有利になる |
| 事業規模が拡大しやすい | 分院・介護施設・リハビリ施設など複数施設の経営が可能になり、系列全体での人事異動や物品の一括購入によるコスト削減も見込める |
| 事業承継がしやすい |
|
| 人材採用・定着が強化される |
|
出典:厚生労働省「医療法人・医業経営のホームページ」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/igyou/index.html)
出典:国税庁「No.2260 所得税の税率」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm)
出典:国税庁「No.5759 法人税の税率」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm)
法人化に伴うデメリット
法人化に伴い生じうる主なデメリットは、下表の4点です。
| 主なデメリット | 内容 |
|---|---|
| 運営管理が煩雑化する | 毎年の事業報告書提出・役員重任登記(役員の任期更新に伴う法務局への登記)・社員総会(医療法人の最高意思決定機関)・理事会の開催(年2回)など、管理業務が大幅に増加する |
| 社会保険料の負担が増える |
|
| 借入金の引き継ぎができない | 個人で借り入れた開業資金は法人に引き継げず、役員報酬から個人として返済を続ける必要がある(医療機器・内装設備は現物出資として引き継ぎ可) |
| 解散・廃院手続きが複雑化する |
|
出典:厚生労働省「医療法人・医業経営のホームページ」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/igyou/index.html)
出典:東京都保健医療局「医療法人運営の解散に関する手続き」(https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/iryo/hojin/kaisan)
法人化すべきケースvs個人のままでよいケース
メリット・デメリットを踏まえると、法人化が向いているかどうかはクリニックの状況によって異なります。方向性に関する情報を整理したため、参考になさってください。
法人化すべきケース
以下のいずれかに当てはまる場合、法人化を検討するタイミングといえます。
- 課税所得が2,000万円を超え、節税効果が手続きコストを上回る見込みがある
- 分院展開や介護事業への参入など、複数施設の運営を計画している
- 後継者への事業承継をスムーズに進めたい
- 採用力を強化し、優秀なスタッフを安定的に確保したい
なお、医療法人といっても社会医療法人・特別医療法人・特定医療法人・基金拠出型医療法人など、複数の形態が存在します。それぞれ要件や法人税率が異なるため、管轄する役所や専門家(税理士・司法書士など)に相談のうえ、進めるとよいでしょう。
具体的な手続きやスケジュールをまとめた資料も用意しているため、手元資料として参考になさってください。
▶クリニック開業マニュアル-法人化編-を閲覧する(無料)
個人が向いているケース
一方、以下に当てはまる場合は、法人化するメリットは少ないといえるでしょう。
- 後継者がおらず、将来的な分院展開や事業拡大の計画がない
- 課税所得が法人化のコストを上回るほど高くない(節税シミュレーションでメリットが薄い)
- 事業所得が少なく、運営管理コストが収益を圧迫する懸念がある
事業の将来性や費用対効果など見極めたうえで、方向性をご判断ください。なお、昨今の賃上げやコスト増の改善策をまとめた資料も用意しているため、参考になさってください。
▶賃上げ時代のクリニック収益構造再設計を閲覧する(無料)
医療法人の種類と個人診療所との違い
ここからは、医療法人とはどのような法人かを整理します。定義・種類・個人経営との違いを整理し、法人化後のイメージを固めましょう。
医療法人の種類
医療法人には「社団医療法人」と「財団医療法人」の2種類がありますが、クリニックの法人化では社団医療法人が標準的な選択です(令和8年3月時点で社団59,514法人・財団379法人)。
財団医療法人は寄付金をもとに設立する形態で運営制約が多く、新規開業での採用はほぼありません。
出典:厚生労働省「種類別医療法人数の年次推移」(https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001714098.pdf)
個人診療所と医療法人の違い
医療法人は「非営利法人」として医療法に基づき設立されます。個人診療所との主な違いは以下のとおりです。
| 比較項目 | 個人 | 医療法人 |
|---|---|---|
| 開設手続き | 各種届出のみ | 都道府県知事の認可が必要 |
| 開設可能な施設数 | 1か所のみ | 分院・介護施設なども開設可能 |
| 退職金制度 | なし | あり |
| 社会保険加入 | スタッフ5人以下は任意(健康保険法・厚生年金保険法の規定による) | 従業員数に関わらず加入義務あり |
| 相続・事業承継 | 閉院・再開院の手続きが必要 | 理事長交代の手続きのみで完了 |
| 残余財産 | 個人に帰属 | 国・地方自治体等に帰属 |
「出資持分の定めあり・なし」とは
「出資持分」とは、医療法人の設立時に金銭や財産を拠出した人が持つ、拠出割合に応じた財産権を指します。医療法の一部を改正する法律(平成18年法律第84号)の施行により、2007年以降に設立される医療法人は「出資持分の定めなし」が原則です。
改正前に設立された「出資持分ありの医療法人」は現在も存在しますが、承継時の課税など特有の問題があります。具体的には、解散時の残余財産は国や地方公共団体などに帰属し、出資者に戻りません。
出資持分のあり・なしについて、より詳しく解説した記事も用意しているため、参考になさってください。
出典:厚生労働省「医療法改正の概要(平成18年6月公布、平成19年4月施行)」(https://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/11/dl/s1105-2b.pdf)
医療法人化の具体的な手続きの流れ
医療法人の設立には、都道府県ごとに定められたスケジュールに沿った手続きが必要です。申請のタイミングを逃すと次の機会を待つ必要が生じるため、早めの準備が欠かせません。
下表にステップごとの内容をまとめたため、参考になさってください。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 1. 設立事前準備 | 都道府県の最新スケジュールを確認し、必要書類・要件を把握する |
| 2. 医療法人設立説明会への参加 |
|
| 3. 定款の作成 |
厚生労働省の定款例を参考に作成する
|
| 4. 設立総会の開催 |
設立者3人以上で開催し、以下の内容を議事録として残す(各自治体のホームページ掲載の議事録サンプルを参考)
|
| 5. 設立認可申請書の作成・提出 |
|
| 6. 設立許可申請書の審査・医療審議会による審議 |
|
| 7. 設立認可書の受領 | 医療法人としての許可取得 |
| 8. 設立登記申請書類の作成 |
認可書受領後2週間以内に以下を含む登記を申請(組合等登記令第二条による)
|
| 9. 各種手続き |
登記完了後、以下手続きを進める
|
まとめ|メリット・デメリットを踏まえて法人化の検討を
医療法人化は、節税・事業拡大・事業承継・採用力強化といった多くのメリットをもたらします。一方で、運営管理の手間や社会保険料の負担増、解散手続きの複雑さといったデメリットも伴います。
法人化の判断に正解はなく、自院の収益規模・将来ビジョン・事業承継計画などから総合的に判断されるとよいでしょう。
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