アフリカで人獣共通感染症に挑む
~40年を超える北海道大学人獣共通感染症国際共同研究所とザンビア大学獣医学部による地球規模課題への取り組み~
エボラ出血熱や鳥インフルエンザに代表されるウイルス性人獣共通感染症は、動物と人の双方に感染し、世界的に深刻な健康リスクとなっています。とりわけ2013~2016年に西アフリカで発生したエボラ出血熱の大流行では、1万人以上が犠牲となり、感染症に迅速に対応できる診断体制と持続的な研究基盤の重要性が改めて認識されました。
こうした世界的課題に対し、北海道大学とザンビア大学は、40年以上にわたる共同研究を通じて、アフリカにおける感染症対策の強化に取り組んできました。活動拠点であるザンビア大学獣医学部は、1985年に日本の無償資金協力により設立されて以降、北海道大学の研究者が技術協力を行い、研究基盤と人財育成を支えてきました。現地では、日本の文部科学省や外務省の支援のもと、さまざまなプロジェクトが継続的に実施されています。本稿では、診断技術の確立と高度化に加え、現地研究者の研究・検査能力の向上を目的とした「アフリカにおけるウイルス性人獣共通感染症の疫学に関する研究」プロジェクト(2019~2024年実施)について、プロジェクト代表の高田礼人教授及び共同研究者の梶原将大准教授に話をうかがいました。
ウイルスを運ぶ野生動物の特定――ザンビアでは、どのような研究が行われていますか?
- 高田教授:
- エボラウイルスなどの人獣共通感染症に関する研究を行っています。これらの感染症は、野生動物が保有するウイルスが人に感染することで発生するため、人の行動のみでは感染拡大を防ぐことは難しく、ウイルスの自然宿主を特定することが重要です。現在はコウモリが有力な候補とされており、現地で捕獲した個体から血液や臓器のサンプルを採取し、遺伝子解析を進めています。これまでに1,000頭以上を調査しています。また、診断法の開発にも取り組んでおり、エボラウイルス抗原迅速診断キットを開発しました。本キットは室温での保存が可能であり、電力や特別な器具を必要としないことから、医療体制が十分でない地域での活用が期待されます。
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(左)高田礼人教授
(右)梶原将大准教授
研究を支えるPHCbi製品――ザンビア大学獣医学部の研究室立ち上げ当初から弊社製品をご使用いただいていますが、どのように活用されていますか?
- 梶原准教授:
- PHCbi製品は英語表記が明確なので、現地スタッフにも使いやすいと感じています。薬用保冷庫は試薬や培地の保存に、CO2インキュベーターは細胞培養に使用しています。バイオメディカルフリーザーや超低温フリーザーは、PCR試薬や現地で採取したサンプルの保存に不可欠です。特に-80℃での保存はウイルスや細胞の活性維持に重要な役割を果たしています。
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- 高田教授:
- ザンビアでは停電が多いため非常用電源などで対応していますが、機器の故障については対処が難しく、サンプルや研究成果が失われるリスクがあります。現地では修理や代替機の確保も容易ではないため、壊れにくいことが最も重要だと考えています。その意味では、PHCbiに代表される日本製品を信頼しています。
人財育成がもたらした成果――プロジェクトの成果はどのように感じていますか。
- 高田教授:
- 研究の成果に加えて、最大の成果は人財育成です。長年の共同研究や留学を通じて、ザンビア国内に高度な技術を持つ研究者が育ってきました。現在では、彼らが次世代の人財を育てる循環が生まれています。この基盤があったからこそ、2014年のエボラ出血熱流行時には、ザンビア大学が国内で唯一、技術的に遺伝子診断が可能な機関として重要な役割を担いました。その成果を踏まえ、COVID-19パンデミックの際には、政府から検査機関として指定を受けました。
- 梶原准教授:
- 以前は研究を志す人財が海外に出ざるを得ませんでしたが、現在では国内で研究を続けられる環境が整いつつあります。研究拠点が整備され、人財が育ち、ザンビア人研究者がさらに次の世代を育成するようになったことを嬉しく感じています。
地球規模で課題に向き合う――今後の展望を教えてください。
- 梶原准教授:
- コウモリの行動を追跡する研究など、新たな手法にも取り組んでいます。ウイルスの動きと動物の生態を結びつけることで、より精度の高い予測が可能になると考えています。
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- 高田教授:
- ザンビアに加え、コンゴ民主共和国など周辺国との連携も進めています。2021年にコンゴ民主共和国でのエムポックスの発生が宣言されて以降、同国の中央獣医学研究所や国立生物医学研究所において、エムポックスウイルスの研究に取り組んでいます。PCR診断の際に用いる遺伝子を確保し、周辺アフリカ諸国への供給も視野に入れながら技術指導を行いました。その結果、現地でも臨床検体からのウイルス分離や遺伝子解析が可能になり、今後の診断法や治療法の開発への活用が期待されます。感染症は国境を越える問題であり、自国や先進国だけを守っても解決できません。地球規模で課題を考える人が多く現れることを期待しています。
高田礼人教授プロフィール
北海道大学人獣共通感染症国際共同研究所 所長・教授。ザンビア大学獣医学部客員教授。専門はウイルス学。エボラウイルス研究の第一人者。著書「ウイルスは悪者か」の執筆やテレビ番組「情熱大陸」「プロフェッショナル」等への出演を通じ、研究成果の社会発信にも取り組んでいる。
梶原将大准教授プロフィール
北海道大学人獣共通感染症国際共同研究所 准教授。ザンビア大学獣医学部客員教授。専門はウイルス学、獣医学。コウモリ由来ウイルスの調査、アフリカでの現地研究を基軸に人獣共通感染症の解明に取り組む。GHIT Fund主催「GHIT R&D Forum」での登壇などを通じ、得られた知見を国内外へ発信。