統合報告書 2025

Business診断・ライフサイエンスドメイン

診断・ライフサイエンスドメインは、グローバルに、医療現場での高精度かつ迅速な診断やライフサイエンス研究の高度化と効率向上を支援しています。がん診断等に用いる病理検査機器・試薬・消耗品を提供する病理事業(エプレディア)、ライフサイエンスを幅広く支える保存・培養機器を展開するバイオメディカ事業(PHCbi)、医療機関向けに体外診断薬・機器などを提供する診断薬事業(PHC IVD)の3事業で構成されており、それぞれ開発・製造・販売を行っています。

売上収益全社比率36.2%

FY24 実績

売上収益

売上収益は、設備投資需要減少による機器の販売減少は継続するものの、病理事業の消耗品販売は成長を維持。為替の好影響もあり、前年同期比増収

売上収益
営業利益
営業利益

※2 減損額調整後

営業利益は、病理事業の収益性改善に加え、前年計上した減損損失や構造改革費用の減少により、前年同期比増益

  • 前年計上の減損※1(34億円)
  • 病理事業の利益率改善
  • 構造改革一時費用の減少
  • 診断薬事業の一時収益
  • 前年計上の関連会社売却益
  • 主力機器の販売減に伴う生産調整影響
営業利益率5.5%

ドメイン戦略

中村 伸朗

中村 伸朗

PHCホールディングス株式会社
常務執行役員診断・ライフサイエンス
ドメイン長

成長・育成事業として経営資源を集中

営業利益率改善幅:7.1%(FY24~FY27)

各事業の強みを活かしながら統合を進め、新たな領域へ

診断・ライフサイエンスドメインは、病理、バイオメディカ、診断薬の各事業を通じて、医療及びライフサイエンス研究の精度と効率を高め、患者さんのQOL向上を目指しています。それぞれの事業が専門性を持ち、「卓越した品質の追求」という共通の信念のもとに結びついています。エプレディアの病理分野における総合的な提案力、バイオメディカの冷凍保存・培養制御技術、診断薬事業部の誇る精緻な微細設計・センシング技術や試薬開発の経験・ノウハウを活かし、がん領域を中心としたソリューションプロバイダーを目指して成長と変革に邁進しています。

2024年度は、細胞・遺伝子治療(CGT)領域で初の製品をリリースし本格参入、デジタル病理分野では初の米国食品医薬品局(FDA)510(k)の認可を取得し、ドメインとして記念すべき一年となりました。

2025年度は、製造・販売・R&Dの3つの柱を強化し、さらなる成長を推進します。欧米・アジアに持つ各製造拠点の強みを活かすとともに、精緻なモノづくり力の高位平準化による製造の最適化を進めます。販売面では、まず国内の3事業部の営業・サービス組織を統合し事業部の垣根を超えた一体化を図っています。R&Dでは、病理分野での米国研究機関との連携に加え、特に再生医療や細胞遺伝子治療の実用化を牽引するCCRM等の研究機関と提携・協力し新しいビジネス機会を探索します。また、本年度より「ドメインR&D」組織を立ち上げ、がん領域を中心に中長期的な戦略の核となる技術の創出に挑みます。

診断・ライフサイエンスドメインが目指す姿は、「「より的確・早期・簡便な」がん診断を実現するイノベーター」と「がん先端治療の早期普及を実現するアクセラレーター」です。世界の医療費は拡大を続けていますが、特に、がんに関する医療費の急速な増加は、医療システムに深刻な負担を与えており、その改善は治療の進歩に直結する重要な課題です。

がん治療市場が抱える主な課題は「診断の遅れ」「治療精度の限界」「副作用の増加」「高額な治療費」「医療アクセスの不平等」等があります。これら課題の解決のためには、「早期診断」「個別化医療」、そして根治が期待できる細胞遺伝子治療などの「新しいモダリティ」の実現が不可欠です。私たちは、新たな価値を創出し、世界の医療の発展に貢献するとともに、PHCグループのさらなる成長を牽引していきます。

病理事業

エプレディア

市場環境・見通し

病理用検査機器・消耗品市場の推移
病理用検査機器・消耗品市場の推移

出所:自社調べ

市場環境
  • がん患者数の増加に伴い、病理用検査機器市場は拡大傾向
  • デジタル病理の需要拡大により、病理用検査機器とデジタル技術との統合が進行
今後の見通し
  • がん患者の増加と検査の複雑化に伴う病理検査の需要増により市場拡大は継続する見込み
  • ワークフロー効率化の需要により、消耗品・検査機器は4%成長となる見通し
  • 低価格帯メーカーの進出により価格競争は激化

製品・サービス

病理消耗品
85年にわたり高品質・高精度の消耗品を業界屈指の幅広い製品数で提供
病理消耗品
病理機器
病理ワークフローのあらゆる工程を支える高品質・高精度の機器を提供
病理機器
デジタル病理
効率・正確性・高処理が必要な現代の検査室を業界最大級の製品で支援
デジタル病理

戦略・目標

戦略
  • ティッシュープロセシング、デジタル病理、環境に優しいレーザー印字機器を成長領域として注力
  • 品質改善とコスト競争力の強化
  • リカーリング比率の継続的な向上
目標(FY24-FY27)
売上CAGR:4.8%

当社がリーダーでもある消耗品・検査機器市場の市場成長率を上回り、戦略的成長分野でシェア拡大を目指す

事業戦略

スティーブン・ライナム

スティーブン・ライナム

PHCホールディングス株式会社
執行役員
エプレディアホールディングス
社長

エプレディアは、病理における検査機器及び消耗品を製造・販売するリーディングカンパニーとして、がん診断を支える製品とソリューションを提供しています。がん患者数の増加に伴い、病理用検査機器及び消耗品市場は拡大傾向にあり、特に検体をデジタル画像としてスキャンし、PCモニター等での観察を可能とするデジタル病理の需要が急速に高まっています。この技術は病理ワークフローの効率化において重要な役割を果たしており、運用コストの最適化に貢献します。

当社では、製品の品質が病理診断において極めて重要であると認識し、品質向上に継続的に取り組んでいます。また、ティッシュープロセシング、デジタル病理、環境に配慮したレーザー印字機器を成長領域と位置付け投資を強化しています。これらの製品は、病院やラボにおける病理ワークフローの効率化を促進し、診断の精度向上や業務の迅速化に寄与しています。

さらに、消耗品販売比率の向上を通じて、安定した収益基盤の構築を目指しています。これらの取り組みを通じて、病理分野における総合的なソリューションプロバイダーとしての地位をより強固なものとし、持続可能な成長を実現していきます。

現場/お客さまの声

デジタル病理分野のパイオニア 3DHISTECH社との協業
エプレディアと3DHISTECH社は2017年に米国・日本を含むグローバルで協業を開始し、これまでに世界で500台以上のデジタル病理の装置を販売しています。製品開発・品質保証は3DHISTECH社、販売・現場での技術サービスは3DHISTECH社のサポートチームと密に連携しながらエプレディアが担う形で協業を拡大しています。昨今では、地域により異なる市場の要求を満たすため、3DHISTECH社のデジタル病理の製品をエプレディアの工場で生産する取り組みや、共同研究も始めています。3DHISTECH社CEOモルナー氏は「今日のような変化の激しい時代には柔軟性と革新性が重要です。3DHISTECH社はエプレディアとともに、グローバル課題に立ち向かい、チャンスを捉え、成功するパートナーシップへの道を切り拓いています」と述べています。エプレディアは、今後もテクノロジーとグローバルな販売プラットフォームを組み合わせ、より多くのお客さまへ価値をお届けしてまいります。
Dr. Béla Molnár氏

Dr. Béla Molnár氏
3DHISTECH社 創業者/CEO

バイオメディカ事業

phcbi

市場環境・見通し

ライフサイエンス機器市場の推移
ライフサイエンス機器市場の推移

出所:自社調べ

市場環境
  • 足元は各地域における景気減速や投資抑制により、顧客の設備投資抑制が長期化
  • 製薬やCDMOでは設備投資や省エネ機器への入替需要も出てきており、投資抑制が続いた状態から今後回復が見込まれる
今後の見通し
  • CGTを含む先端治療技術開発や製造プロセスへの重点投資が継続、高い市場成長の見込み
  • 細胞を用いたライフサイエンス研究市場の拡大により、超低温フリーザーやCO2インキュベーターの市場成長も継続する見込み

製品・サービス

超低温フリーザー
検体保存に重要な高い温度安定性、省エネ性能と使いやすさで研究支援
超低温フリーザー

出所:自社調べ

CO2インキュベーター
優れた制御技術と独自の汚染防止機能で細胞の培養効率と再現性を向上
CO2インキュベーター

出所:自社調べ

ライブセル代謝分析装置
細胞の連続的な代謝変化を可視化。がん研究や幹細胞などの研究を支援
ライブセル代謝分析装置

戦略・目標

戦略
  • 省エネをはじめとした環境に配慮した製品やIoTによる付加価値創出など、差別化技術を有した商品ラインアップの拡充と販売拡大
  • ライブセル代謝分析装置「LiCellMo™」、自動培養装置「LiCellGrow™」をはじめとしたCGT領域製品の開発・販売の推進
目標(FY24-FY27)
売上CAGR:5.6%

事業戦略

高魚 力

高魚 力

PHCホールディングス株式会社
執行役員
PHC株式会社
取締役
バイオメディカ事業部長

バイオメディカ事業部の柱である、超低温フリーザーやCO2インキュベーターをはじめとする機器は、ライフサイエンス市場における研究開発を支えるファンダメンタルな商品であり、今後も成長が期待される分野です。安定した品質とお客さまが求める性能を備えた商品ラインアップを通じて、研究者の皆さまが安心して研究を行える環境を継続して提供してまいります。

がん治療の中でも根治が期待される細胞・遺伝子治療(CGT)は、非常に高い成長が見込まれているものの製造プロセスにおいてQCD課題があります。この課題解決のために、当社のコア技術を活かした代謝分析装置や自動培養装置の市場浸透を図ります。また、パートナー企業との協業を通じて商品ラインアップの拡充を加速し、より多様なニーズに応える体制を構築してまいります。

さらに、中期経営計画の実現を通じて、より多くの方々が先端治療を受けられる環境を作り出し、モダリティの進化に貢献します。

既存事業の安定的な成長を基盤とし、新規領域でのソリューション拡大に加え、IoT技術を活用したお客さまへの新たな価値提供を通じて、ライフサイエンス市場のさらなる発展をリードしてまいります。

現場/お客さまの声

販売代理店 ヤマト科学さまの声
弊社は、理科学機器・研究施設製品を製造・販売するメーカーとして、また分析/計測機器・試験検査機器を取り扱う商社として、研究開発や生産技術を含めた先端分野に必要なソリューションをお客さまに提供しています。PHC株式会社さまとは、代理店としてバイオメディカ事業部製品を中心にお取引をさせていただいている一方で、メーカー同士のアライアンスもグローバル市場で推進しており、まさに互恵パートナーとして協業しています。PHC製品の販売においては、群馬工場で超低温フリーザー等の製造工程を見学させていただきました。特に冷凍機周りの溶接作業は毎日テストピースを使用してコンディション確認を行うなど高い品質意識が確認でき、改めて販売意欲を高めることができました。また、弊社でも注力しているバイオファーマ向け関連装置として、細胞培養の工程で新たな 下平 雄一氏知見が得られるライブセル代謝分析装置「LiCellMo™」の販売も積極的に展開し、パートナーとしての役割を果たしながら成長につなげてまいります。
下平 雄一氏

下平 雄一氏
ヤマト科学(株) 理事
首都圏Ⅰブロック長
東京支店長

診断薬事業

PHC IVD

市場環境・見通し

IVD(体外診断薬)市場の推移
国内CRO市場の推移

出所:自社調べ

市場環境
  • IVD
    慢性疾患や感染症の有病率と発症率の増加に伴い市場は拡大
  • インジェクター
    バイオ医薬品の普及により市場は成長
今後の見通し
  • IVD
    医療リソースが限定的な環境でも疾患の早期発見に寄与することから途上国中心にさらなる市場拡大の見通し
  • インジェクター
    在宅自己注射剤が増加する中で、電動インジェクター市場が成長見込み

製品・サービス

診断薬
血液凝固・線溶分野をはじめ、血液中の成分を測定する体外診断用医薬品(診断薬)を幅広く展開
診断薬
診断機器
移動式免疫発光測定装置は高感度で迅速に測定。全自動血液凝固検査システムなどで大規模機関にも対応
診断機器

戦略・目標

戦略
  • 試薬事業の強化と加速
  • 凝固・線溶領域の強みを活かし、がんを含めた各疾患における合併症リスクの高い「血栓塞栓症」に関わる循環器系領域での促進を図る
目標(FY24-FY27)
売上CAGR:5.9%

事業戦略

徳永 博之

徳永 博之

PHC株式会社
取締役
診断薬事業部長

診断薬事業部では、試薬事業を強化し、成長を加速していくことを目標としています。特に、移動式免疫発光測定装置「パスファースト」は海外市場での販売に力を入れており、米国では、2024年3月24日にFDAより高感度トロポニン試薬のSpecial 510(k)クリアランスを取得しました。同年5月には米国への出荷を開始し、米国市場での販売を最大化するとともに、その他の国や地域への販売拡大も進めています。

また、凝固・線溶領域における強みを活かし、がんを含めた各疾患における合併症リスクが高い「血栓塞栓症」に関わる循環器系領域での事業促進を図ります。その一環として、2025年3月に血小板活性化に伴い血中濃度が上昇する可溶性C型レクチン様受容体(C-type lectin-like receptor 2:sCLEC-2)を測定する「sCLEC-2測定キット」を研究用試薬として発売しました。sCLEC-2は、血小板活性化マーカーとして脳梗塞や心筋梗塞などの動脈血栓症におけるバイオマーカーとしての活用が期待されています。臨床上のより多くの有用な情報を収集し、体外診断用医薬品としての承認取得を目指します。

今後、診断薬事業部が保有する試薬開発技術やバイオセンシング技術、試薬と簡易迅速検査機などのコア製品を基盤とした新しい価値の創出に取り組んでまいります。

現場/お客さまの声

当事業部製品STACIA CN10ご導入のお客さまの声
群馬県桐生市にある桐生厚生総合病院(以下、「当院」)では、2022年に全自動血液凝固検査システムSTACIA CN10を2台導入しました。STACIA CN10は、試薬を装置内にセットしたまま長期間安定的に使用できるため試薬調製や管理などにかかる手間が大幅に削減され、業務効率が向上しました。
また、当院は地域周産期母子医療センターに指定されているため、広範囲の地域から患者さんの緊急搬送を受け入れています。その中で、母体の凝固検査などにも常時迅速に対応でき、診療にも非常に貢献しています。
さらに、2台導入したことにより、1台が点検や修理中であっても緊急手術中の新鮮凍結血漿投与時の凝固検査が可能になったほか、幼児の患者さんなど採血量が限られる場合でも少量の検体量で追加検査が実施できる点は、医師からも高い評価を得ています。STACIA CN10とその試薬は、地域医療の質の向上や救急対応の強化に寄与しており、医療現場が抱える課題解決に大きく役立っています。
当事業部製品STACIA CN10ご導入のお客さまの声