統合報告書 2025

Businessヘルスケアソリューションドメイン

ヘルスケアソリューションドメインは、主に日本国内向けに、医療や創薬の現場を支援する製品・サービスを提供しています。医療機関向けに血液・生化学・微生物・遺伝子関連検査等の臨床検査サービスを展開するLSIM事業(LSIメディエンス)と、医療機関向けにレセプトコンピュータや電子カルテ等医療IT製品の開発・販売を行うヘルスケアITソリューション事業(ウィーメックス)、製薬企業向けに非臨床試験や治験等の研究開発支援サービスを展開するCRO事業(メディフォード)にて構成されています。

売上収益全社比率35.5%

FY24 実績

売上収益

売上収益は、CGM新製品発売による増収や為替の好影響を受けるも、BGM事業における米国での販売協業終了影響、欧州市場の縮小影響などにより前年比減収

売上収益
営業利益
営業利益

※2 減損額調整後

営業利益は、増収影響やコスト削減効果、M&Aで取得した事業の収益改善効果、前年計上した減損損失が当期は発生しなかったことにより、大幅な増益

  • 前年計上の減損※1(127億円)
  • コスト削減
  • M&A取得事業の収益改善
  • 構造改革一時費用の減少
営業利益率7.2%

ドメイン戦略

佐藤 浩一郎

佐藤 浩一郎

PHCホールディングス株式会社
代表取締役副社長/COO/CSO
ヘルスケアソリューション ドメイン長

収益性維持、改善

WEMEX:買収統合効果の創出、
クラウドベースのソリューション展開

LSIM、mediford:事業再構築

営業利益率改善幅:2.0%(FY24~FY27)

課題が顕在化する日本の医療を支えるソリューションを提供

昨今、日本の医療現場は、少子高齢化や従事者の地域偏在、働き方の問題、生活習慣病の増加、高額な先端医療費などさまざまな課題に直面しています。

ヘルスケアソリューションドメインでは、日本のヘルスケアの現場を支えるソリューションを提供し、医療機関・医療従事者の業務効率化をサポートしています。

LSIメディエンスは、長年にわたり培ってきた高度な検査・分析技術を基盤に、臨床検査サービスを展開しています。生化学、血液学、免疫学、微生物学などを含む多種多様な検査項目を展開するとともに、がん検査や遺伝子検査などにも力を入れ、病気の予防、迅速かつ的確な診断、効果的な治療の実現に貢献しています。

1972年に日本初のレセプトコンピュータを発売したウィーメックスは、電子カルテや電子薬歴システムなどの提供を通じて、医療現場の業務効率化に貢献しています。また、近年は政府が推進する医療DX政策で導入が進むオンライン資格確認や電子処方箋などの売上も伸びています。2030年に電子カルテ普及率100%が目標に掲げられるなど、今後も増加が見込まれる医療DX関連の需要を、業界のパイオニアとして培った迅速な政策対応力と強固な顧客基盤、全国展開の営業・サポート体制により、着実に獲得していきます。

メディフォードは、創薬の探索から臨床試験までを一貫して支援する体制を構築し、非臨床・臨床分野の新規技術の導入など、新しい医薬医療の発展に向けたサービスを強化しています。研究開発の各ステージに対応した分析技術と国内外の製薬企業・分析ラボラトリー向けサービスを通じて、多様化する新規治療法(モダリティ)の発展に貢献します。

日本の医療現場は今後、医療の質やアクセスを保ちつつ、費用対効果のさらなる改善が求められると考えられます。私たちはこれからも、医療の現場に欠かせない存在として、お客さまの声に耳を傾ける姿勢を大切に、持続可能な医療の実現に貢献してまいります。

LSIM事業

LSIメディエンス

市場環境・見通し

国内受託臨床検査市場の推移
国内受託臨床検査市場の推移

出所:自社調べ

市場環境
  • 受託検査は、COVID-19検査による特需が剥落する一方、一般・特殊検査が回復基調
  • 経費の圧縮や固定費の変動費化の観点から、FMS※1/ブランチ※2を導入する施設数は増加
  • ※1FMS(FMS方式):病院検査部に対して検査機器・システム及び試薬・消耗品等を供給し、検査室運営ノウハウを提供するサービス
  • ※2ブランチ(ブランチラボ方式):医療機関内で検体検査業務を実施する形態。検査技師・検査機器・検査システムなど必要な設備を導入し、検査室を運営するサービス
今後の見通し
  • 受託検査は、診療報酬引き下げにより価格下落圧力はあるものの、遺伝子検査や未保険検査の成長が見込まれる
  • FMS/ブランチの需要は安定的に推移

製品・サービス

臨床検査サービス
臨床検査サービスは、生化学、血液学、免疫学、微生物学、遺伝子学を含む多種多様な検査項目を展開。ラボオートメーション・システムを通じて、“より正確に、より迅速に”という高度な臨床検査ニーズに対応します。また、全国に営業拠点網を有し、長年にわたる実績により大学病院からクリニックまで医療機関全般、そして行政機関等のお客さまとお取引いただいています。
臨床検査サービス
日本シェア3

出所:自社調べ

戦略・目標

戦略
  • 遺伝子・未保険分野の事業領域拡大
  • 拠点の最適化
  • 検査業務の運用改善、ITシステムを活用した品質管理体制の強化
目標(FY24-FY27)
売上CAGR:2.1%

事業戦略

内野 健一

内野 健一

PHCホールディングス株式会社
執行役員
株式会社LSIメディエンス
代表取締役社長

LSIメディエンスを取り巻く2024年度の臨床検査市場は、COVID-19関連検査の需要が大幅に減少しましたが、その一方で、生化学検査など一般的な臨床検査の需要は回復しつつあります。2027年度までの国内の臨床検査市場の年平均成長率(CAGR)は1.5%程度と想定しています。

中期経営計画2027では、収益性・効率性の改善を喫緊の課題と認識し、拠点の最適化、地域の拠点医療機関やパートナー検査センターとの連携を含めた地域戦略を推し進めることで選択と集中を加速させ、当社の最大検査拠点である中央総合ラボラトリーの稼働効率を最大限に高め、コスト競争力の強化を図ります。また、成長分野である遺伝子未保険分野では、企業との連携によるCDx(コンパニオン診断)項目のIVD化やアカデミアとの連携による独自項目の新規立ち上げを推進するとともに、がんや成人病をターゲットとしたリスク検査を展開することで事業領域を拡大させ、2027年度までの売上収益の年平均成長率2.1%を目指します。

現場/お客さまの声

不適切事案 再発防止の取り組み
当社中央総合ラボラトリーにおける品質に係る不適切事案を受け、是正と再発防止に取り組んでいます。
その取り組みの一つとして、「顧客/社会からの信頼回復!」と「チャレンジできる風土醸成!」を目指す姿として掲げたプロジェクトを開始しました。“PROJECT RE∞BORN”と名付けた本プロジェクトは、外部からの視点を取り入れながら、日頃の私たちの考え方や業務を見直し、さらに、お客さまや社会から再び信頼を得るために私たちは何をしなければいけないのか、何を変えなければいけないのかを未来志向で考え、実践する取り組みです。
本プロジェクトでは、検討、決定したことをトップダウンで実施するのではなく、プロジェクトメンバーをファシリテーターとして従業員からのボトムアップで取り組んでいます。これまでの「当たり前」が変わることを恐れず、未来に向けて変革する覚悟を持って「新化」し続ける企業を目指してまいります。
不適切事案 再発防止の取り組み

ヘルスケアITソリューション事業

ウィーメックス

市場環境・見通し

医療情報システム市場の推移
医療情報システム市場の推移

出所:自社調べ

市場環境
  • 医療DXの推進に沿って、電子処方箋の導入促進及び電子カルテ情報共有サービスの本格運用が開始
  • 新規導入の医療機関では低廉なクラウド型の電子カルテが拡大
今後の見通し
  • 電子カルテは、2030年に普及率100%を目指す政策の推進、現状電子カルテ未導入の医療機関が全国4万件超存在することから、今後も成長する見込み
  • 健康経営分野は政策・制度の後押しもあり、中小企業への導入が進み今後も継続して大きく成長する見込み

製品・サービス

診療所向けシステム
レセコン・電子カルテ一体型。入力負荷を軽減し、場所を問わず情報閲覧が可能
診療所向けシステム

出所:自社調べ

薬局向けシステム
チェック機能を標準搭載。ミスを防ぎ薬局経営をサポートする電子薬歴
薬局向けシステム
クラウド型電子カルテ
シンプルなUIながらオンプレミス型の使いやすさをクラウドで実現
クラウド型電子カルテ

戦略・目標

戦略
  • 医療DXに向けた、医療政策推進及び先導性や独創性の高いソリューションによる事業展開
  • FY23に買収したWHSとの統合加速とシナジーの最大化
  • クラウド製品の強化による顧客基盤、シェア拡大
  • 健康経営関連の製品、ソリューション強化
目標(FY24-FY27)
売上CAGR:5.4%

事業戦略

高橋 秀明

高橋 秀明

PHCホールディングス株式会社
執行役員
ウィーメックス株式会社
代表取締役社長

ウィーメックスはさらなる顧客基盤の拡大を目指し、2025年10月1日より、当社の100%子会社であったウィーメックス ヘルスケアシステムズを統合いたしました。この統合により市場をリードする体制を強化するとともに、両社で培ってきたソリューションの活用を通じて、付加価値の向上を実現します。また、政府が推進する医療DXによる需要拡大の機会を的確に捉え、収益機会の最大化を図ります。

具体的には、診療所領域において、2024年4月にクラウド型電子カルテシステムを上市。従来の主力製品にクラウド型が加わることで、顧客の幅広いニーズに応え、医療機関におけるDX推進に寄与します。また、薬局領域では、電子薬歴に加え、薬局経営をサポートするソリューションを展開し、大手薬局チェーンやドラッグストアの業務効率化を通じて、薬剤師が患者さんと向き合う時間を増やします。予防・未病領域においても、企業や健康保険組合などに対し、予防医療の観点から業務効率化を実現するソリューションを提供しています。また、遠隔医療システムの分野では、へき地医療や臓器提供体制の構築も支援し、医療従事者の負担軽減と患者さんの医療アクセス向上に貢献しています。

現場/お客さまの声

新製品 クラウド型電子カルテ プロジェクト責任者の想い
2025年4月に販売を開始した「Medicom クラウドカルテ」は、30名以上の開業医へのヒアリングや200件超のアンケートをもとに、使いやすさを最優先し、当社の強みを継承して設計しました。お客さまから「クラウド型でもウィーメックスのレセプト機能が使えるのは非常に魅力的」との声を頂戴したときは本当に嬉しかったです。具体的には、カルテ入力の内容から算定可能な項目を自動抽出するAI自動算定や、会計時の領収書等の帳票自動発行などにより会計業務の効率化を実現。ウェブブラウザから直接医療用文書を起動・保存できる仕組みについては「ローカル保存の手間がなく、カルテ内で完結できるのが便利」といった声もいただきました。また、オプションでのサポートサービスは、そのサポート内容に加え、有無も選択できることで、コストを抑えた導入が可能になる点も評価いただいています。「Medicom クラウドカルテ」の販売により、当社の電子カルテのラインアップは、オンプレミス型・ハイブリッド型・クラウド型が揃い、多様なニーズにお応えできる体制が整いました。今後も、医療DXの推進と電子カルテの普及に貢献し、クラウドならではの進化を武器に、医療現場とともに成長するプロダクトにしていきたいと考えています。
松永 錦弥 「Medicom クラウドカルテ」プロジェクト責任者

CRO事業

メディフォード

市場環境・見通し

国内CRO市場の推移
国内CRO市場の推移

出所:自社調べ

市場環境
  • 国内・グローバルの製薬会社の研究開発費用の増加傾向、ドラッグロス/ラグ解消に向けた取り組みによる国内治験市場の広がり、政府による国内アカデミア・バイオベンチャーを中心とした市場強化策などにより非臨床・治験市場ともに拡大傾向
今後の見通し
  • 製薬企業の対象領域の絞り込み・深化、新モダリティでの製薬開発件数の増加傾向などによりCROの検査技術・対応力要求は高まる見込み

製品・サービス

非臨床試験受託サービス
GLP基準に適合した施設及び最先端の設備機器を活かし、製薬・食品などの民間企業をはじめ、官公庁やアカデミア向けに、薬事承認申請用の各種試験から研究開発初期の探索的検討試験、コンサルティングまで幅広く展開
非臨床試験受託サービス
バイオアナリシスサービス
生体試料中の薬物やその代謝物、バイオマーカー等の分析法開発から分析法バリデーション、実検体の測定を実施。多様な手法を取り入れ、新規モダリティの研究・開発における各フェーズに合わせた分析サービスを提供
バイオアナリシスサービス

戦略・目標

戦略
  • 検査技術力・ラインアップを活かした競争力強化・事業拡大
  • AMED・他企業とのネットワークを活かしてアカデミア・ベンチャー領域へのアプローチ強化
  • アジアラボネットワークを利用した国際治験獲得
目標(FY24-FY27)
売上CAGR:4.5%

事業戦略

清水 啓

清水 啓

メディフォード株式会社
代表取締役社長

メディフォードは、非臨床から臨床、さらには市販後までを一貫して支援する体制を有する、国内でも有数の医薬品開発業務受託機関(CRO)です。近年、医薬品の開発は、多様な創薬基盤技術を用いて、低分子医薬品だけでなく、核酸医薬品、抗体医薬品、遺伝子治療製品など、さまざまな分子(中分子~高分子)にまで及んでいます。一方、国内ではドラッグロスやドラッグラグが深刻な課題となっており、国も規制緩和や薬事制度の見直しを進めています。またグローバルにまで視野を広げると、医薬品開発に要する費用の増大や承認に至るまでの期間の長さが長年の課題となっており、欧米ではFDAやEMAが新しいアプローチの方法論(NAM)の開発や利用を強力に推進し始めています。

これら国内外の潮流に対し、当社は長年蓄積した技術力や最新鋭の機器を有する強みを活かし、多様化する各種モダリティや今後拡大することが見込まれる治験市場に対応できる体制を整備しています。また、アカデミアやバイオベンチャーへのアプローチも強化し、NAMに対応するための新たな技術導入にも積極的に取り組んでいます。このように、市場の潮流を的確に捉えて将来を見越した取り組みを迅速に行うことにより、売上目標を達成してまいります。

現場/お客さまの声

業界の方々と病理ナレッジを共有する取り組み
当社は、前身の企業も含め約半世紀にわたり医薬品や化学品などの安全性試験や薬効薬理試験の受託サービスを提供してまいりました。その中で培った病理組織検査に関する知識と知見により、当社には多くの病理専門家が在籍しています。このような非臨床領域の病理ナレッジを創薬業界の皆さまと共有するため、2024年5月より全6回、LIVE形式で「病理ウェビナー」を開催し、毎回200名以上の方々に聴講いただきました。
講演後の質疑応答では、当社の病理専門家などがリアルタイムで質問にお答えし、「他社の視点や課題も共有でき非常に有意義だった」などと大変ご好評をいただきました。また、ウェビナー終了後にも追加時間を設け、聴講者の「お困りごと」にも可能な限りその場で対応しました。この取り組みを通じて、「病理組織検査に関する技術指導」など具体的なご相談をいただく成果も得られています。今後も、当社が培ったナレッジの共有や、各分野の専門家との交流の機会を設け、創薬業界への貢献に努めてまいります。