統合報告書 2025

Corporate StrategyCOO/CSOメッセージ

佐藤 浩一郎

ヘルスケアの未来を切り拓く成長戦略と実践に、
積極的にコミットしていく

佐藤 浩一郎
PHCホールディングス株式会社
代表取締役副社長
最高執行責任者(COO)
最高戦略責任者(CSO)
糖尿病マネジメントドメイン長
ヘルスケアソリューションドメイン長

1. 2030年の目指すべき姿の実現へ、「中期経営計画2027」を策定

2030年に当社が目指すべき姿に向け、2024年11月に「中期経営計画2027」を策定しました。本計画では、急速に変化するグローバル環境に対応し、持続的な成長を実現するための戦略を明確にしました。従前の「中期経営計画(Value Creation Plan)」では、「糖尿病マネジメント」「ヘルスケアソリューション」「診断・ライフサイエンス」の3事業領域を中心に成長を目指してまいりました。しかし、外部環境の変化に伴い、既存事業のキャッシュ創出力の低下、資本効率の悪化、成長領域での収益化の遅れが課題となりました。これらの課題に真摯に向き合い、競争環境の中で持続可能な成長を実現するため、中長期的な戦略の見直しが必要と判断しました。そこで、当社は、2030年に目指すべき姿として新たなビジョンや価値観を定めるとともに、その実現に向けた第一段階として、「診断・ライフサイエンス」ドメインに注力した新たな「中期経営計画2027」の策定に至りました。この計画には、技術革新や市場環境の変化といった外部要因への対応に加え、当社の技術とイノベーションを最大限に活用し、ヘルスケアの未来を切り拓く強い想いが込められています。

2. 3つの重点施策で、持続的成長に向けた基盤強化を推進

「中期経営計画2027」と同時に新たに策定したビジョンは、当社が2030年を目標に目指すべき姿と考えており、2つのフェーズにより実現していきます。まずは成長に向けた基盤構築を行うフェーズ1、そして、築いた基盤を足場に、診断・ライフサイエンス領域を核とした持続的な成長を果たしていくフェーズ2、これら2つのフェーズで取り組みます。

フェーズ1にあたる今回の「中期経営計画2027」では、3つの重点施策「収益基盤強化のための構造改革」「ポートフォリオ管理強化」「診断・ライフサイエンス領域への注力」に取り組むことで、成長に向けた確かな足場固めを行いたいと考えています。

重点施策1. 収益基盤強化のための構造改革

「中期経営計画2027」の1つ目の重点施策は、「収益基盤強化のための構造改革」です。これまでも行ってきた事業ごとの改革に加え、収益性の改善と資本効率の改善という2つの軸で、会社全体を横断する改革を推進し、キャッシュ創出力を高め、財務体質の強化を図ります。

まず、収益性の改善では、コストの最適化と拠点・組織の最適化に重点を置きます。コストの最適化については、当社の営業利益率がベンチマーク企業と比較してやや低い傾向にあることから、グループ横断で効率的な購買プロセスを導入し、倉庫や輸送の最適化なども進めることで、コスト低減を図ります。拠点・組織の最適化に関しては、これまで各グループ会社や事業部ごとに行っていた調達などの業務をグループ全体で統合し、スケールメリットによる効率化を図ります。また、国内外にある複数の営業所や工場を統合したり機能を集中させたりすることで、グループ全体でより効率的な配置とし、部門間の連携を強化します。加えて、グローバルなモノづくりにおいても、アジア、欧州、米国の各拠点で、どこで製造し供給するのが最も効果的かを検討し、近年の米国の関税問題にも迅速に対応できる柔軟な生産体制を整えます。

次に資本効率の改善においては、設備投資を中心に投資効率を基準とした優先順位付けを行い、効果の高い事業や投資に資源を集中させます。これにより、キャッシュフローの改善を図ります。また、事業に直接関係のない非事業用資産の売却も進めることで資本効率をさらに向上させます。

これらの改革の結果として、2027年度には2024年度と比較して、収益性の改善による効果で80億円から120億円、資本効率の改善による効果で20億円から30億円程度の改善を見込んでいます。

重点施策2. ポートフォリオ管理強化

2つ目の重点施策は、「ポートフォリオ管理強化」です。まず、当社の3つの事業セグメントについて現状を説明します。「糖尿病マネジメント」ドメインでは、持続血糖測定(CGM)システムへの移行が進み、血糖値測定(BGM)システムの市場が縮小する中で、BGM事業はさらなる注力セグメントの強化と徹底したコスト管理、売上減少を抑えつつ収益性の維持を図ります。CGM事業については、2024年10月に米国で発売した365日継続使用可能なCGMシステム「Eversense®365」の販売を強化していきます※1。「ヘルスケアソリューション」ドメインは、市場の安定的な成長が見込まれる中、臨床検査、ヘルスケアIT、創薬支援事業の収益性と効率性の改善を目指します。グループ各社の具体策として、電子カルテシステムやレセプトコンピュータなどヘルスケアITを手がけるウィーメックスについては、2023年に取得した事業の統合効果の創出や政府が進める医療DXに適応したクラウドベースのソリューションを展開するとともに、臨床検査事業を運営するLSIメディエンス、創薬支援事業を行うメディフォードでは事業の再構築を進めます。「診断・ライフサイエンス」ドメインは、高い成長が見込まれるため、経営資源を集中させる成長・育成事業として位置付けています。

これらの事業ドメインの成長戦略を着実に実行するために、各事業の位置付けや評価指標にROIC(投下資本利益率)を導入しました。さらに、事業の成長性と組み合わせることで、ポートフォリオにおける各事業の立ち位置を明確にしました。例えば、成長性が高くROICも高い事業は成長事業として資源を重点的に投入し、ROICが低くても市場の成長性が高い事業は育成事業としてキャッシュ創出に向けた投資を行うなど、選択と集中を戦略的に進めています。今後は、管理制度とプロセスを構築し、事業部ごとの ROIC目標値を設定して改善を図っていきます。

ROICに基づく事業展開と併行して、各事業の課題意識や目標達成を社内浸透させる取り組みも推進しています。事業の選択と集中については社内の関心も高いため、ROIC導入を通じて、投資家がどのような点に注目しているのか、市場のルールを踏まえて事業活動を展開することの意義や必要性について、社内の理解を深めています。

重点施策3. 診断・ライフサイエンス領域への注力

重点施策の3つ目は、「診断・ライフサイエンス領域への注力」です。当社が今後も持続的な成長を続けるためには、市場の成長が期待される分野に力を入れるだけでなく、当社の強みである「精緻な技術」を最大限に活かせる分野を見極めることが重要です。この取り組みは、当社の経営理念や目指すビジョンとも深く結びついています。

現代社会では、平均寿命が延びる一方で、健康寿命をいかに延ばすかが大きな課題となっています。この課題は日本だけでなく、世界中で注目されており、診断や治療法の進化がその解決に向けて進んでいます。特に遺伝子、細胞を活用した治療法は大きな可能性を秘めており、当社は、この分野で精緻な技術を活かせると判断し、診断・ライフサイエンス領域に注力することを決めました。

診断・ライフサイエンスを取り巻く社会情勢を見ると、がんの早期発見や死亡率の低下、患者さん一人ひとりに合わせた先端治療法の普及、そしてこれらを実現するための低コスト化が求められています。当社は、診断や先端治療法の低コスト化を支える製品や技術を提供し、がんによる死亡率の低下や治療効果の向上に貢献していきます。

この分野で当社が目指すのは、「『より的確・早期・簡便な』がん診断を実現するイノベーター」であること、そして「がんの先端治療法の早期普及を実現するアクセラレーター」としての役割を果たすことです。この目標を達成するために、まず現在の計画期間では、これまで個別の事業部単位だった活動を見直し、ドメイン一体となることで、営業・製造・オペレーションの効率化・強化を進めます。その上で細胞や遺伝子を使った新薬開発に関連する機器の提供や、病気の確定診断の自動化や迅速化、さらに検査をより簡単にする体外診断用医療機器(IVD)などの開発に取り組みます。これらの取り組みを通じて事業を拡大し、2030年以降に目指す姿を実現したいと考えています。

3. サステナビリティ戦略:持続的な成長と企業価値向上を両立

「中期経営計画2027」において、特に重視しているのがサステナビリティ戦略です。気候変動への対応、人権の尊重、そしてサプライチェーン全体での持続可能な取り組みは、当社従業員全員が担うべき責任であり、これらを通じて持続可能な社会の実現と会社の成長を両立させたいと考えています。

現在は、事業活動で直接排出される温室効果ガス(Scope 1)と、電力使用に伴う排出量(Scope 2)の削減に注力しており、サプライチェーン全体での排出量(Scope 3)の削減にも段階的に取り組む予定です。これは単なる環境規制への対応にとどまらず、会社の競争力を高めるための重要な戦略だと考えています。

4. COOとCSOの兼任で、策定した戦略の確実な執行を実践

私自身、COO(最高執行責任者)とCSO(最高戦略責任者)の2つの役職に就き、経営戦略、事業開発、医療政策を統括し、製品製造、品質管理、調達の各機能を担っています。戦略の立案と執行を連携して進める役割といえますが、特に重視しているのは、策定した戦略が絵に描いた餅で終わらないよう、情報共有を含む戦略と執行に関する部門の連携を深め、戦略の実行精度を高めていく点です。

COO:R&D再構築やグローバルなモノづくり体制を強化

COOとして、主に3つの領域において変革を進めてきました。まず、研究開発部門の開発体制の大幅な見直しを実施しました。既存の開発体制をやめ、各事業とよりスムースな連携が図れる体制を整備しました。開発の迅速化やイノベーションの創出が可能な、診断・ライフサイエンスに注力したR&D組織の立ち上げを進めています。

次に、モノづくりの強化にも注力しており、当社の強みである「精緻な技術」を、グローバルに展開するべく、海外拠点に人財を派遣して、技術力向上や生産性改善に力を入れています。

さらに、調達についても、グローバルでの機能強化を進めており、グループ全体でのコスト最適化を目指す取り組みが現在進行中です。

CSO:経営企画部の戦略機能強化や顧客理解を深化

CSOへの就任後、担当する経営企画部には、新たに3つの機能を加えました。1つ目はリスクマネジメントです。外部環境の目まぐるしい変化に対応するため、どのような変化が起こり得るか、そこにどのようなリスクが潜んでいるかを会社全体で常に把握し、万一の事態にも迅速に対応できるよう、経営企画部が主導して機能強化を図っています。

2つ目はボイスオブカスタマー(顧客の声)活動です。これまで小規模な部門で取り扱っていたお客さまの声を、経営企画部のもと全社横断的に管理・活用する体制を整えました。お客さまのニーズは常に変化しているため、収集した意見や要望を迅速に各事業部門に伝え、製品やサービスに反映させていきます。

3つ目はAIへの対応です。AIは社会全体で急速に浸透しており、事業での利活用も待ったなしの状況です。そこで、AI利用の啓蒙活動と業務効率化、自社の製品やサービスへのAI導入を機動的に進めています。

ヘルスケア業界に寄与する、共存共栄のパートナー戦略

ヘルスケア業界においては、規制・資金・技術・公衆の利益といった側面が重なり合い、多くのステークホルダーが関与するため、強固なパートナーシップの構築がビジネス成功の鍵となります。当社は、 Senseonics社や3DHISTECH社との協業を通じて、革新的な製品の開発や市場展開を推進してきました。また、米国のウェイクフォレスト大学やカナダのCCRM(再生医療商業化センター)とも連携し、診断・ライフサイエンス領域での研究開発や技術の普及を支援しています。

産官学連携の強化も重要な柱です。国民皆保険制度の円滑な運用を支えた歴史を基に、政府や学術機関との連携を深め、医療DXや再生医療の推進に貢献しています。例えば、一般社団法人再生医療イノベーションフォーラム(FIRM)や日本医療機器工業会を通じた政策提言、電子処方箋やオンライン資格確認の全国展開支援など、業界全体の変革をリードする取り組みを進めています。

5. 2027年に向けた当社の戦略: 盤石な基盤と未来への布石

「中期経営計画2027」で定めた2025年~2027年の3年間は、事業基盤を強化し、未来への成長を支える重要な期間です。この期間中、当社は診断・ライフサイエンス領域を中心に、収益基盤の強化と持続的成長のための準備を進めます。現在は、構造改革を通じた収益性向上と、選択と集中による経営資源の最適化に注力しております。同時に、診断・ライフサイエンス領域での成長には時間がかかることを見据え、将来に向けた研究開発や新製品投入の準備を進めています。例えば、ライブセル代謝分析装置「LiCellMoTM」に続く自動培養装置「LiCellGrowTM」など、次世代のパイプライン製品の開発を加速し、収益基盤をさらに強化します。

佐藤 浩一郎

また、個別化医療の促進や、がん診断の効率化を目指したデジタル病理ソリューションの展開など、新たな価値の創造を目指し、2030年以降のさらなる成長を見据えた盤石な基盤を構築していきます。

構造改革に注力する一方で、会社全体の活力や成長意欲を保つことも重要です。基盤固めと成長戦略のバランスを取りながら、未来を見据えた柔軟かつ着実な経営を進めていきます。

6. 持続可能性と革新の融合で、ヘルスケアの未来を拓く

私が将来に願うのは、持続可能性とイノベーションを両立させ、医療分野における社会課題を解決し続ける企業であることです。ヘルスケア業界では、製品やサービスが長期間にわたり使用される特性があるため、企業そのものの持続可能性が非常に重要です。一方で、健康寿命の延伸や個別化する医療ニーズの変化に対応するために、絶え間ない革新が欠かせません。

当社は、これまで培ってきた製品やサービスの本質的な価値を大切に守りながら、デジタル、AIなどの新たなテクノロジーを積極的に取り入れ、変化する医療ニーズに応える新たな価値を創造していきます。そして、健康を願うすべての人々のために、ヘルスケアの未来を切り拓く存在であり続けたいと考えています。